Project Story02

計測シミュレーション事業

道路上の環境をバーチャルな環境で再現し、
自動運転技術の評価を行う。
そんな、画期的なプロジェクトの歩みを紹介します。

イノベーション事業部
モデル・制御技術開発室 主任 2011年入社

原口 健太郎KENTARO HARAGUCHI

※所属は取材当時のものです

INTERVIEW

クルマや歩行者の動きを、バーチャルな環境で表現。

世界中で今、自動運転に関する技術開発が加速している。世の中の多くのクルマが自動で走るようになったら、移動の方法や日常の過ごし方など、さまざまなことが大きく変わるだろう。しかし、そうした新しい時代を実現するためには、乗り越えなければいけない課題も多い。中でも大きなものが、「安全」というテーマだ。想定しなくてはならないのは、「信号に従って停止する」というような単純な状況だけではない。たとえば、並走するクルマが想定外のタイミングで車線を移ってきた時や、歩行者が突然車道に飛び出してきた時などに、どのように危険を回避するのか。危険な状況を想定した上で自動運転のテストを行うことが必要だが、実際の道路ですべての状況を試すことには限界がある。
そうした背景からTTDCが取り組み始めたのが、自動運転の評価をバーチャルな環境で行うための、技術開発だ。標識や信号、建物といった「動かないもの」だけではなく、周囲を走るクルマやバイク、歩行者など「動くもの」もバーチャルな環境で表現。そうして再現した道路で自動運転車を模擬的に走行させれば、実際の道路を使わなくても評価ができるようになる。

「人らしさ」をモデル化する技術。

このプロジェクトを担当するのが、イノベーション事業部のモデル・制御技術開発室。そのメンバーとして、クルマや歩行者といった「交通参加者」のモデル化に取り組んでいるのが、原口健太郎である。
「私が担当しているのは、自動運転車両の周囲を走るクルマの動きを、制御技術によって再現する取り組みです。たとえば、免許を取りたてのドライバーとベテランドライバーでは、ハンドル操作も違いますよね。免許を取りたての人なら交差点をどんなタイミングで右折して、ベテランの場合とどう違うのか。そうした『人らしさ』を反映させたうえで、クルマの動きをモデル化しようとしています」
実際の道路では、さまざまな年齢、性格、技術レベルのドライバーがクルマ運転している。それら多種多様なドライバーが走行する現実の交通環境を、そっくりそのままバーチャルな世界で再現するのが、このプロジェクトがめざす最終的なゴールだ。
「バーチャルな環境でテストを行えば危険がないため、開発のスピードが加速することは間違いありません。また、シミュレーション上で危険な状況を意図的に作り出し、そうした場面での対処方法をあらかじめ検証しておくことも重要だと思います。実車ではできないことが実現できる点に、シミュレーション技術を活用する意義があると思っています」

3~5年先に必要となる技術を開発する。

このプロジェクトがスタートしたのは、2018年。「自動運転に関わる技術を開発する」という、会社全体の方針を受けて始まった取り組みだ。原口たちが所属するイノベーション事業部は、TTDCの計測シミュレーション事業の中でも、もっとも先の時代を見据えて先行的な技術を取り扱っている事業部。「今後必要となりそうな技術」に着目して開発を行い、社内の各事業部に引き継いでいくことを使命としている。
「イノベーション事業部が開発した技術が、すべて実用化されるわけではありません。でも、まずは幅広い情報をいち早くキャッチし、可能性がありそうな技術に幅広くトライする必要があると考えています。そうして私たちが挑戦したことの中から、クルマの未来を変えるような技術が生まれると思っています」
イノベーション事業部の中で、これまで多様な技術開発に携わってきた原口。2017年までは現在とは異なるテーマに取り組んでいた。当時行っていたのは、テストコースなどで車両を評価する際に使われる、「自動操縦ロボット」の開発。試験車両を使って耐久試験などを行う際、テストドライバーが行っていた運転をロボットで再現するという試みである。原口が担当していたのは、ステアリングやアクセル、ブレーキを制御するための、制御モデルの開発である。制御のパラメータを調整することによってテストドライバーの運転を再現し、人の手を使わずに車両の評価を行う。そうした技術開発を手がける中で蓄えてきたのが、車両の「動かし方」に関するノウハウである。その知見を活かすことを期待され、自動運転の評価環境づくりに関わることになった。

「世の中にないもの」を生み出すという使命。

このプロジェクトに携わっているメンバーは、現在6名。原口のほかに、歩行者の動きのモデル化を担当するメンバーや、街並みの再現に取り組むメンバーもいる。「実際の交通環境を完全に再現する」という最終形にたどり着くにはまだ時間を必要とするが、着実に前進を続けている。
原口の担当分野で最近可能になってきたのが、ドライバーによる「判断」の違いをモデル化すること。たとえば、運転中に車線を変更する時、どういう条件の時にどんなタイミングで変更しようとするのか、Aさん、Bさん、Cさん…それぞれのデータを取れば、その違いを分析してモデル化することが可能になる。やがて、道路上のさまざまな状況を再現できるようになり、歩行者や街並みのモデルなどを一つに組み合わせることができた時、実際の交通環境に大きく近づけることができるのだ。
「私たちと同様の技術に着目し、実際に開発を進めている企業は、世界中にいくつもあると思います。私たちの使命は、どの企業にも負けない評価環境をいち早く作り上げることです。世の中にすでにあるものを後から作っても仕方ないですから。世界を見据えて、厳しい競争に打ち勝っていきたいと思います」
目的の場所が遠いからこそ、その先には大きな達成感が待っている。メンバー同士で議論し、試行錯誤しながら挑戦を続ける日々。「世の中にないもの」を生み出すため、やるべきことを一つひとつ積み重ねていく。

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